Hotspur’s blog

移行テスト

【ゲーム】言語解読とクィア性『7 Days to End with You』

 言葉の通じない謎の女性に保護された主人公が、未知の言語を解読しながら一週間の生活を送って行くゲーム。

 

 対訳も辞書もなく、本当に手探りで未知の言語を訳す必要があるのだが、言語解読の難易度は低めである。基本的に言葉がどのような場面で使われているのかを見て、当てはまる単語を選んでいくだけで物語を理解する事ができる。

 その代わり、架空言語を理解する事でその社会の価値観を理解していくような、言語学的な面白さはない。かばん語や語尾変化の概念も無いので、むしろ言語学に精通しているほど、文字の共通点に意味があるのではないかと深読みをして、解読に詰まってしまいそうだと感じた。

 短いゲームなので、登場する語彙もさほど多くはない。謎の女性は、言語の分からない主人公のために、語彙を絞って話しているのではないかと考えられる。だが、女性以外の登場人物の語彙も少ない事は、ゲームの都合を感じてしまった。現実でも語彙の少ない言語自体は存在するが、それらは単純な概念を組み合わせて複雑な概念を表現していたり、物の区別の仕方が独特だったりするものだが、このゲームの言語にそういったものは感じられなかったからだ。

 

 架空言語のリアリティを考える場合、その言語が書けるかどうかも重要な点だ。やたらと入り組んで装飾的だったりする創作言語は、日常的に使用されているとは思えないので、リアリティに欠ける。

 そういった視点で見た場合、このゲームの言語は全く書く事に適してはいないのだが、これは失語症視点の文字の見え方を表現しているのではないかと思ったので、さほど気にならなかった。文字をあえて読ませる気のない記号的に作る事で、それが象形文字である可能性を排除させたかったのだろう。

 

 ゲームの問題点なのだが、Switchで遊んでみて、全体的に操作にストレスを感じた。

 カーソルの感度が高すぎて、小物を調べるのが大変だった。キャンセルウインドウが出っ放しになって画面が見えなくなってしまったり、書類の拡大表示の際に、背景画面の小物の調査が出来てしまうなど、バグやそれに近い挙動があった。

 また、マルチエンディングで終盤にしか分岐がないのに関わらず、途中から始める機能がないので、EDを見るためだけに作業を繰り返す必要があるのも不便だと思った。

 

 一方、面白かった要素は、未知の言語の正解は誰にも分からないのだという事と、物語のクィア性が結びついているという点だ。

 女性は、戦争で死んだ恋人である主人公を蘇生させる実験を繰り返しているらしいのだが、写真で見られる主人公の見た目は、かなり女性的だ。

 けれども、本当に主人公は女性なのか、写真の人物と主人公は同一人物なのか、女性と主人公の関係性は恋愛関係なのか、正しい事は何一つ分からない。

 この事にはクィア・ベイティング的な嫌らしさを感じないでもないが、それよりも、関係性に名前をつけて、定義する事を拒絶するクィア性を感じた。なにせ、プレイヤーが最初に決めるのは、女性の事をどう呼ぶかという事なのだから。関係性も、名前すらも自由に決めていいというゲームの在り方自体が、一元的な解釈で語られることへの抵抗になっているのだ。