Hotspur’s blog

移行テスト

【ゲーム】クトゥルフ釣りゲー『Dredge』

ゲーム画面


 不気味な港町で魚を釣りつつ謎を解明していくゲーム。

 普通の魚の他に、名状しがたい奇形の魚が釣れたり、夜の海に居ると正気度が下がって化け物に遭いやすくなるなど、クトゥルフっぽい世界観をしている。

 ゲーム面の特徴は、魚にはそれぞれ形状が設定されていて、限りある船のスペースに対してうまくパズルのように組み合わせて詰め込む必要がある事だ。時間経過による腐敗や、正気度低下によるペナルティなどもあるので、計画を立てて効率のよい釣りを目指す事がゲームのキモと言ってもいいだろう。

 

 釣りのシステムはタイミングよくボタンを押すありがちなものなのだが、ボタンを押さない事による失敗扱いはない(サルベージは別)し、設定で救済措置もあるので、タイミングゲーが苦手な人にも優しいゲーム設計がされている。

 本作の重要部分は釣り自体ではなく、釣果をどうやって持ち帰るかという部分にある。大きくて複雑な形をした魚は、扱いづらいが売値が高いので、それをメインに釣りつつ隙間に小さい魚を入れるなどといった計画を立てて釣りに行くのだが、道中でレアな魚を見つけて計画が狂ってしまうとか、鮮度を気にして危険な夜の航海を行ったりといった駆け引きのおかげで、何度も新鮮な航海を何度も楽しめるのである。

 サブクエストや収集要素も多く、新しい場所を航海する時には、探検もまた楽しみの一つだ。

 

 このゲームはクトゥルフっぽい世界観をしているが、クトゥルフ神話の怪物が出てくるようなものではない。ラブクラフトの小説を読んだ時に感じる、不気味な海洋生物への恐怖を体験する事ができるので、クトゥルフ神話ではないが、根本的な部分がクトゥルフっぽいという作品だ。

 ラブクラフトの小説の中でも、インスマスの話が直接のインスパイア元だと思われる。ところが、インスマス面をした魚人達が、特にラブクラフトの人種差別的な素朴な恐怖心が表出したものであるのに対して、このゲームは差別的な要素はほとんどない。魚人は出てこないし、時代背景の割に多様な人種や性別のキャラクターが自然に出てくる。

 ラブクラフトの著作を語る上で、差別の話は避けて通れないし、特に魚人ものはなおさらである、という事を踏まえてゲームを見ると、このゲームの世界観は、意図的に脱差別的な海洋ホラーを目指して作られたのかもしれない。

 

 ゲームのビジュアルもとても良く、3Dで描かれる風景は、凹凸やテクスチャの少ないあっさりしたもので、怖さは控えめになっている。

 釣りの場面では、バリエーション豊かな奇形魚のデザインとフレーバーテキストがゲームを彩る。奇形魚は、無理矢理肉体を変質させられたせいで苦しんでいるような設定のものが多いのだが、よくもまあ気持ち悪い魚のレパートリーがこれほど用意できたものだと関心してしまう。ゲーム上では、普通の魚と奇形魚を同じ網に入れても問題ないのだが、食害が起こらないのか心配だ。

 気持ち悪い魚といっても、適度にデフォルメされていて、グロ映画のように見るだけで気分が悪くなる、というようなものではない。見た目でガツンと来る嫌悪感があるのではなく、画面の情報量の少なさが、かえって想像を掻き立てるタイプの嫌悪感がある。釣った後に、「目のように見えるが実は卵」「ヒゲだと言い張っているがどう見ても寄生虫」のようなフレーバーテキストを見て魚の正体を知った時にゾッとするのだ。

 人物のデザインも、不気味さと愛嬌のバランスが良い。初期の頃は陰気で底知れない風に見えた住民達の印象は、交流を進めていったり、明るい人物が登場したりすると、徐々に印象が変わっていくのだ。

 例えば、サブイベントのフードの人々は、意味深なことを言って魚を不気味な食べ方をするが、単に飢えてて死にそうな人で、有益な報酬をくれる良い人たちだと分かると、徐々に可愛らしく見えてくるようになる。

 

 

 一方、このゲームの最大の欠点は、ゲームの難易度が低すぎるという事だ。効率の良い釣りを求められるのはせいぜい中盤までで、徐々にお金が余りだすので、終盤には釣りは図鑑埋めのための作業と化す。

 最初の頃は、何が起こるか分からない夜は恐ろしいが、対処方法が分かってしまえばもう怖くない。

 約20時間くらいのシナリオをクリアする程度なら楽しめるが、最大サイズを更新したり、効率を追求してみるとかの、自分なりのやり込みをしたいという気にはなれなかった。

 

 ムーンフィッシュなどのレア魚の中で、さらに低確率で出現する奇形種の図鑑埋めの難易度の高さは、「難しい」というよりも「面倒」という表現が似合う。これらは出現場所が限られている魚なのだが、闇雲に探し回っているうちは疲れるし、実は全ての魚の出現場所は完全固定だと気づいてしまえば、出現場所を往復するだけの退屈な作業になる。

 魚の出現場所が完全固定なのは、運によって難易度が大きく変化してしまわないと考えれば良いかもしれないが、リアルではなく、興醒めだ。

 こうした図鑑埋めの難しさは、終盤に手に入る撒き餌によって解決できるのだが、撒き餌の強力さは、図鑑埋めが作業である事を認めたようなものだと思った。